社会課題の解決に資する、英国で
実施する系統用大型蓄電池事業への
参画
国際営業推進部 課長代理 長安 一毅
エネルギー環境営業部 営業次長 小田 幸司
コーポレート営業第一部 主任 杉山 優紀

変動性再生可能エネルギー(VRE)の導入比率が高い英国では、電力の需給バランスを取るため調整電源の活用が進められています。その英国の送電会社に、日本工営株式会社様(以下、日本工営様)が系統用大型蓄電池を活用し、電力系統の安定化という社会課題の解決に貢献するプロジェクトが発足。芙蓉総合リース(以下、芙蓉リース)は、本プロジェクトに共同事業者として出資するとともに、プロジェクトファイナンスをアレンジし、シニアレンダーとして本プロジェクトに融資しています。

英国での新事業のため、プロジェクトファイナンスと共同事業者が必要だった

――このプロジェクトの概要を教えてください。

小田 欧州では再生可能エネルギーの普及が急速に進んでいます。特に英国は先進的で、太陽光・風力を電源とする変動性再生可能エネルギー(VRE)比率は、約26%にものぼります。VREの比率の上昇に伴い、電力系統安定化のニーズが高まっており、系統運用会社に調整力を提供する系統用蓄電システムの導入が進められています。
こうした英国でのニーズを受け、日本工営株式会社様の完全子会社であるNKEE様が事業主体となり、英国の大手送電会社National Grid様が運用する電力系統に大型蓄電池を接続し、電力ネットワークの安定化に貢献する。これがプロジェクトの概要です。

――どのような経緯で、このプロジェクトに参画したのでしょうか?

杉山 これまで日本工営様とは、リース取引のみのお付き合いで、購買部門の担当者様としか接点がありませんでした。その中で、日本工営様のニュースリリースを確認していたところ、蓄電池ビジネスに関する記事を拝見しました。そこから事業について詳細を伺いたいと訪問したことをきっかけに、エネルギー部門の方々とやり取りできるようになり、今回のお話にたどりつきました。約3年前の話になります。

小田 次に動いたのが私たちの部門です。これまで10年近く太陽光を中心とした発電事業に携わってきましたが、本プロジェクトは芙蓉リースとしても取り組んだことのない事業内容でした。そこで、まずは英国電力市場の仕組みから、本プロジェクトに関する事業の妥当性を検証するため、日本工営様と協議を進めていきました。

長安 本件は、市場で電力を取引するマーチャント型ということで、政府の補助制度やPPAなどによって固定された収入が見込めるプロジェクトと比較し、より多くのリスクを取る必要があるプロジェクトでした。しかし、将来日本でも同様のマーケットの拡大が見込まれます。その商機を逃さないためにも、すでにマーケットが整備された英国で、系統用大型蓄電池事業の知見を積み上げることを目的として参画することにしたのです。

新たな業務分野、新たな体制での参画にも臆さずに取り組む

――本プロジェクトでの役割について教えてください

長安 国際営業推進部はプロジェクトファイナンスのアレンジを担当しました。今回は少し特殊な形になっています。日本工営様がメインの事業者ですが、芙蓉総合リースのほか、日系3社が共同事業者となって出資します。その事業SPCに対して、当社の米国現地法人であるFuyo General Lease (USA) Inc.がプロジェクトファイナンスの形態でシニアローンを提供しているのです。
一般的に同じ会社がシニアレンダーと出資を同時に担うケースは、ほとんどないと言えるでしょう。
芙蓉総合リースが、シニアレンダーとしての参画を決断したのには理由があります。英国の調整力市場はマーチャント型で、入札の結果によって価格が大きく変動します。ヒストリカルデータがあれば大凡の予測を立てられますが、蓄電池という新しい分野ではデータが少なく、収入の予測が立てづらいことが大きな問題でした。そんな難易度の高い事業ということで、プロジェクトファイナンス形態でのシニアレンダーの候補は世界中を探しても多くはありませんでした。
しかし、事業を推進している日本工営様は、何とかこのプロジェクトを成功させたい、という熱い思いをお持ちでした。そこで、芙蓉総合リースとしても、その熱い思いに応えるべく慎重に検討を重ねて、今回は私たちがプロジェクトファイナンスのアレンジとシニアレンダーの役割を担うことにしたのです。

小田 エネルギー・環境営業部は出資者の立場として、事業計画の妥当性検証や分析を行いました。私自身これまで発電事業等に携わってきたことと、国内の電力ネットワークの仕組みはある程度理解しておりましたが、英国の電力市場メカニズムや蓄電池の特性を活かした本事業の検証は非常に難航を極めました。しかし、日本工営様との協議を重ねながら事業性を早期に整理し、出資に向けた社内意思決定を迅速に行いました。

――本プロジェクトで特に苦労したのは、どのような部分でしたか?

長安 芙蓉総合リースのほかに、出資している企業の中には、プロジェクトファイナンスでのローン調達を、参画の条件としている企業もいました。日本工営様からもご要望があり、このプロジェクトファイナンスのアレンジに奔走することになったのです。
まず、日本工営様とは丁寧にコミュニケーションを重ね、マーケットの動向やアグリゲーターの戦略についても詳細に把握し、対応できるストラクチャーを考えました。また、英国の弁護士とやり取りし、商習慣や準拠法などを確認しつつ、日本工営様のご要望と芙蓉総合リースの条件に折り合いをつける為には、どのような形が適切かなどを詰めていきました。
さらに、芙蓉総合リースは銀行機能を持っておらず、英国に拠点もありません。そのため、英国での口座管理のオペレーションメカニズムを本件のために一から準備したり、エージェントを登用して期中のレポーティングの仕組みを構築したり、ボロワーの事業運営上のさまざまな権利などに担保を設定したりと、数多くのハードルをクリアしていく必要がありました。こうした諸問題をクリアして、プロジェクトファイナンスをオーダーメードで作り上げたことが、本プロジェクトで非常に苦労した点です。

――本プロジェクトでは、どのような成果が期待できますか?

小田 今回の系統用大型蓄電システムは2023年春の運転開始を予定しています。今はまだプロジェクト進行中ではありますが、非常に良い経験ができていますし、今後も貴重なノウハウが得られるはずです。この経験・ノウハウを活かして、将来日本にも導入が予定されている調整力市場への事業参入に向けて、スムーズにサービス提供できるよう準備を進めていきたいと思います。

――今後の展開に関しては、どのようにお考えでしょうか?

杉山 初めて経験することが多く、時間も要したプロジェクトですが、社内の関連部署と連携し、お客様とも丁寧にコミュニケーションを重ねていけば、難しい案件でも取り組むことができると分かりました。この経験は、今後の営業活動でも活かせると考えています。

小田 近年、蓄電池のコストも逓減されて来ており、発想によっては、新たなビジネス機会につながります。例えば、芙蓉リースではPPA事業を積極的に展開していますが、蓄電池を組み合わせることで、需要家の再エネ比率を更に上昇させる等、既に蓄電池を活用したさまざまなサービス展開を推進しております。

長安 私たち国際営業推進部は、再生可能エネルギーに限らず、当社のさまざまな事業の海外展開を幅広く実施しています。本プロジェクトで得た基本的なリスク分析の知見や、どのようなリスク整理が必要かなどは、他の海外事業でも活用できるはずです。今後、英国に限らずさまざまな国での新規事業に挑戦する際にも、こうしたノウハウは活きると思っています。

  • 所属、肩書は取材時点